第二回スペイン日本語劇コンクールに参加して

日本語劇で何を学ぶか

マドリードCSIMチーム

マドリードCSIMチーム2016624第二回スペイン日本語劇コンクールが終わって早二ヶ月。夏休みのふとした瞬間に劇の一シーンが蘇ってきます。これほど自分の脳裏に焼きついた日本語劇コンクールとはいったい何だったのでしょうか。学習者はこのコンクールに参加することで何を学んだのでしょうか。

日本語教育に演劇の要素をいち早く取り入れた野呂博子氏は『演劇的アプローチでイキイキコミュニケーション』の中で、演劇・ドラマ的な特徴として次の6点を紹介しています。①総合的な(ホリスティック)活動であること。②身体を使う活動であること。③現在進行形の活動であること。④演劇・ドラマ的活動にかかわる人たちは具体的な場を共有する必要があること。⑤何回でも試すことができる活動であること。⑥演技の基本は模倣であること。ここに挙げられた6つがコミュニケーション活動の練習として有効であることは言うまでもありませんが、演劇を学習活動に取り入れたからといって一朝一夕に結果が出るものでもないことは、教師である私たちが一番よく知っています。

皆さんは語劇コンクールが日本語教育の中でもたらす効果とは何だと思いますか。「やるからには結果を出さなくては」とか、「いいものを作らなくては」とか、とかく教師のほうが意気込んでしまいがちですが、私は、日本語教育の中で語劇をする醍醐味は練習のプロセスにあると思っています。日々の授業活動に演劇的要素を取り入れることから始まり、語劇にたどり着くその道のりは決して短絡的なものではありませんが、練習を通して彼らが学ぶことは計り知れないと思います。演劇的要素を取り入れた学習活動としては、身体を使ったゲーム、ロールプレイ、インプロ(即興劇)、スキット(寸劇)などが挙げられますが、これらの活動を日々の授業の中で少しずつ実践していくと、学習者同士がコミュニケーションしやすい場づくりをすることができます。ゲームから始まって、人の前で表現する練習を繰り返ししていくうちに、学習者が日本語でコミュニケーションすることに慣れていく手ごたえを感じます。

そして、最後の目的であるコンクールのための寸劇では、練習の中で学習者と教師が「対話」をしていきます。日本語の表現について深く考え、話し合い、アイディアを出し合い、そして演じる。学習者の日本語が生まれ変わり、生きていくプロセスを実感することができます。話し言葉だけでなく、それに伴う身振り、表情、間、話し手同士の距離などの非言語的コミュニケーションも、納得のいくまで話し合うことで、自信を持って演じられるようになります。

今回私が担当したマドリード・アウトノマ大学の学生たちとも、練習の中での「対話」を通してたくさんのことが話し合われ、アイディアが生み出されました。結果としてはまだまだ未熟で、反省すべき点も多々ありましたが、演じることで自信をつけ、一回り成長した学生たちを見ていて、ここまでやってきたプロセスが彼ら、そして、私自身にとっても一番大切なことだったのではと目頭が熱くなる思いがしたのでした。

鈴木裕子(マドリッド・コンプルテンセ大学現代言語センター(CSIM)

  参考文献

野呂博子・平田オリザ・川口義一・橋本慎吾(2012)『ドラマチック日本語コミュニケーション「演劇で学ぶ日本語」リソースブック』ココ出版.