4月30日(日)、マドリードのCentro de Negocio Lagascaにて、春の定例研修会が行われました。 今回の定例研修会は、講師にドイツ・ハンブルク大学の三輪聖先生をお迎えし、「複数の文化・言語の中を生きる子どもたちの日本語について考える」というテーマで行われました。
まず、受付で「母」「教師」「異文化」のどの立場での参加かで3つに分かれ、その後、それぞれの立場の人が満遍なく行きわたるよう、4〜5人ずつのグループに分かれました。研修会は5つのグループごとの活動を交えて進められました。
三輪先生ご自身も「複数の文化・言語の中を生きる子ども」の母親であり、導入として、ドイツでそのような複文化・複言語を持つ子どもたちについて考える「チームもっとつなぐ」についてのお話がありました。そして、今回のキーワード、継承語とは一体何なのか、インプットの量や質の点では母語と異なり、習得過程の違いから外国語や第2言語とも異なる、そのような問いかけがありました。まず、私たち自身はどのようなことばを持っているかをグループで話し合いました。
グループワーク① 「わたしのことば」について話しましょう
各々の言葉の環境について、第一言語(母語)、第二言語、継承語、外国語をグループ内で発表しました。継承語というと不思議な感じがしましたが、方言も含めたりすると・・・という先生のヒントですんなり理解することができました。
グループ内で同じことばを持つ人はおらず、一人一人が「わたしのことば」を持っているんだと実感しました。
このグループワークからトピックはCEFRの考え方へとつながっていきました。CEFRの考え方に基づいた継承語としての日本語は次のように捉えられます。
- 複言語主義 → 日本語は、外から与えられて「継承すべきだ」と強制されるものではなく、自分の中に既にある言語レパートリーの1つである」
- 行動中心アプローチ → 日本語を使ってできることがたくさんあることに気づく
- 社会で行動する人 → その「日本語」を通じて社会で行動する
このような観点から、継承語を持つ子どもたちを「チームもっとつなぐ」では「複文化・複言語キッズ」と呼んでいるそうです。
グループワーク② 「子どものことば」について話しましょう
周りにいる複文化・複言語キッズがどんな「ことば」に囲まれているか、その子自身の中にはどんな「ことば」があり、「いつ」「どんな場面で」使っているかについて話し合いました。喧嘩をする時や怒る時は学校言語である英語で捲し立てられるといった話や、普段はスペイン語だが、日本に一時帰国した際の寝言が日本語だったという話など、子どもたちが複数の言語を場面によって切り替えて使っている例がたくさん挙がりました。
グループワーク③ 複文化・複言語キッズの「できる」を書き出しましょう
子どもたちが日本語で何ができるかをポストイットに書き出し、個人、家庭、社会、学校などの各領域で違いがあるのかを見ました。最初は周りに複文化・複言語キッズがいる参加者が主体となっていましたが、出たアイデアを元に新たな気づきや疑問が生まれ、グループ内で議論が深まりました。
グループワーク④ 書き出した「できる」が、読む、書く、聞く、話す、やりとり、仲介のどの言語活動に当てはまるか分類しましょう
領域によって当てはまる言語活動の数に違いがあり、各言語活動を考えるうちに新たな「できる」に気づくことができました。
グループワーク⑤ 「できる」ことに「ことばを支えるチカラ」に関連するものはありますか
「ことばのチカラ」には「ことばを使うチカラ(=コミュニケーション言語能力)」と「ことばを支えるチカラ(=一般的能力)」の2種類があり、私たちは「ことばを使うチカラ」につい目が行きがちだが、知っていること、できること、気持ち、学んでいけることなどの「ことばを支えるチカラ」も重要。
「年賀状を書くことができる」など、最初は日本の文化を知ってもらうという目的で始めたことも、次の年には「できる」ことになり、知識やスキルが育まれていることがわかりました。
グループワークを通じて、身近に複文化・複言語キッズがいない参加者も実際の例を聞くことができ、具体的なイメージが掴みやすかったです。継承語を持つということが、家族や周囲からのプレッシャーやアイデンティティー形成の問題など、ネガティブなこととして捉えられがちだが、複文化・複言語を持つことで、人の痛みを知り、一般的能力が広がり、生きる力につながっていくのだというお話しに、日本語を教える楽しみや意義を再確認した研修会でした。
神原 可奈美(アルメリア)