第34回APJE定例研修会 報告

第34回APJE定例研修会
研修会の概要
日時:2022年11月6日(日)10時30分から14時00分まで
会場:Office Madrid Retiro – Atocha・オンライン
講師:谷モラターヤ ルミ先生 (マドリード自治大学)
テーマ:Adquisición de competencias culturales a través de literatura japonesa    
主催:スペイン日本語教師会
参加者数:会場23名、オンライン18名、計41名

はじめに
残暑が長引いた今年のマドリードでしたが、今回の研修会を待ち兼ねたような秋がやってきました。急に涼しくなったためか、暖かい地方からお越しの先生方には少し寒く感じたようです。イベリアの澄んだ空が広がる日曜日、コロナ禍から3年ぶりにようやく対面式の研修会を迎えることができました。(※ハイブリッド研修会のために一部はオンライン参加)

朝10時から会場に次々と会員の方々が到着し、受付を済ませてから久しぶりの対面に会話も弾んでいました。今回講演を引き受けてくださった谷モラターヤ先生も満面の笑みを浮かべられていました。また、日本国際交流基金からは今村様、平川様と和田様、そしてフランスからは近藤先生もご参加くださって、講演が始まる前から会場はすでに盛り上がっていました。

板倉会長のご挨拶の後、谷モラターヤ先生はまず自己紹介を、そして、今回の研修会の内容について説明されました。先生ご自身も含めて教師会のみんながお互いに勉強できるようなワークショップにしたいと仰い、講演を始められました。

研修会のテーマ
今回の研修会のテーマ「Adquisición de competencias culturales a través de la literatura japonesa」では、日本文学作品をいかに学習者に興味を持って楽しんでもらうか、またどのように日本語学習に応用できるかという講演とワークショップが行われました。

10:30 研修会開始

研修会の内容
講演は以下の通りに四部に分けられました。

第1部
La literatura japonesa en España y su historia

まず、ジャポニスムによって日本の文学作品が英語とフランス語版に翻訳、出版され、日本語教育の教材にもなった経緯と、ヨーロッパへ辿り着いた歴史が説明されました。
こういった変遷について、谷先生は、日本語を語学として勉強するだけでなく、日本文学作品を翻訳したり日本語研究に貢献したりする人が増えてきたと指摘されました。また、読者の好みが変わると共に、古典作品のみならず、ホラー系や、あらゆる系統の漫画も盛んに訳されるようになったそうです。一方で、様々な文学賞を受賞した作品が、売れるという理由で翻訳・出版される場合も少なくないと言及されました。

第2部
Las editoriales y los géneros literarios 

第2部ではスペインでどんな出版社がどのような日本の文学作品を訳して出版してきたかについて説明されました。その後、先生は1904年から2016年の間にスペインで最も訳された日本文学作品、最も作品が翻訳された日本の作家について話され、小説や漫画の他にも武道関係の本や子供の絵本も人気を博しているとコメントされました。これからどんな新しい作家の作品が人気を呼んでいくかについても説明されました。また、スペインにおける俳句について特に言及され、俳句は五感を使って想像をさせる力を持ち、その楽しみ方も色々あり、スペイン各地に俳句協会があるほど俳句の文化は広く親しまれているようです。

質疑応答の時間
ここで質疑応答の時間になり、会員の皆さんからいくつかの質問やコメントが寄せられました。出版社はどうやって作品を選んで翻訳して出版するのか、翻訳者として仕事をしたいがどうやって作品を選んだらいいのか、また、自分が翻訳しているのが終わる前に他の人が先に翻訳して、出版してしまった場合はどうしたらいいのか、著作権に関する質問などに対し、先生が一つ一つ丁寧に答えられました。

写真撮影 + 休憩
質疑応答時間のあとは参加者全員の写真撮影と休憩時間に入りました。

12:00 研修会続行
休憩が終わり、いよいよ研修会も後半です。

第3部
El papel de la literatura japonesa como herramienta cultural

第3部では、まずオリエンタリズムの影響で日本に対する歪んだイメージがありがちなため、文学作品を通じて、より正しい日本文化理解を促すことが重要だということから入りました。先生ご自身がUAM大学2年生に俳句を作らせたところ、みんな俳句が好きだったというエピソードを述べられました。学生に散文または詩についてのアンケートに答えてもらったところ、俳句の場合はやはり国が変わるとその季語(またはその関連語)も日本のそれと異なっていることが判明しました。先生はハンガリーや南アフリカの例を挙げ、練習として研修会参加者をグループに分けて、スペインの「春」の季語を考えてMentimeterに書き込んで共有するように指示されました。その後十分間スペインの夏、秋、そして冬の季語を考えるグループアクティビティが続き、それぞれが考えた季語が共有されました。

第4部
Propuestas sobre la adquisición de la cultura y la lengua japonesa a través de su literatura

谷先生が大学で実施された学生向けのアンケートから、最近はジェンダー問題というジャンルにも人気が増えつつあることがわかりました。学生たちのコメントを踏まえた上で、日本文学を違う形で少しずつ取り入れていくことが大切だという先生のお話には改めて考えさせられました。ここで、先生がいくつかの日本文学作品と作者を提示され、それらを時代順に並べるアクティビティが行われました。この活動をグループでしながら日本文学に対する知識の足りなさを参加者は痛感させられました。学生たちにいろいろ教える前に私たち教師も日本文学作品の基本的な知識をもう一度確認する必要があるなあと思いました。

続いて、文学作品のほかの学習方法と楽しみ方についていくつかの提案をいただきました。一方、作品の選択に関してはレベルによって選ぶこと、また日本語に訳されたスペインの文学作品を読むのも一つの楽しみ方だと述べられました。ただし、作品を学生のレベルに合わせて選ぶ際、先生としてどんなクラスで使うか、そのクラスの人数やどんな学生なのかにも考慮する必要がありますし、文字だらけの作品だけでなく、漫画版や映画版の使用も考えられるとコメントされました。

ここで先生は「雨ニモマケズ」を例に、日本文学作品にみるさまざまな文化的・歴史的・社会的要素について語られました。そして、「我々はみんな詩人になれるか」という疑問を提起され、学習者にできることを提示され、次のアクティビティ:文学作品の日本語教育への応用に移されました。この活動では谷川俊太郎の『女に』にある「ここ」と言う詩と芥川龍之介の『蜘蛛の糸』の文を使って、授業で言語的・文化的にどう利用できるかグループでディスカッションを行い、たくさんのアイデアと提案をwww.menti.comに送って共有しました。ここでは、数多くのアイディアや授業への可能性が出され、日本語・日本文化を教える我々先生たちにとって非常に有益な練習だったと思います。

最後に
スペインでも日本文学作品の翻訳は近年ブームになり、これからもさらに伸びていくなか、子供でも作れる俳句ワークショプなどのような文学のワークショップも増えているそうです。最後に先生は他の形でも文学は楽しめることや原作を言語学習と翻訳のツールとして利用することが大切だと述べられ、研修会は締めくくられました。

14:00 研修会終了
時間になったため、質問やコメントをGoogle Formアンケートに書くこととなり、参加者の皆さんは懇親会へ移動しました。

今回の研修会も非常に面白かったです。とても興味深いテーマを谷モラターヤ先生が丁寧に紹介し説明してくださいました。参加者の皆さんも知恵を絞って、様々な意見を出し合い、ワークショップのアクティビティに奮って参加した様子が見られました。今回のアクティビティで得られたアイデアはこれからの日本語教育・日本文学教育に応用できるものばかりで、日本文学に興味ある人にとっては更なる楽しい日本語・日本文学学習が期待できるのではと思っています。

Eddy Y. L. Chang エディー・チャン(マドリード)