第38回 APJE 定例研修会 報告
日時: 2024年11月3日(日)10時30分~14時00分
会場:ハイブリッド(対面+オンライン)
対面:Escuela Oficial de Idiomas Jesús Maestro (C.Jesús Maestro, 5, Chamberí, 28003 Madrid)
オンライン:Zoom
講師:オルネド・ルシア先生(サラマンカ大学文献学部)
テーマ:「Reflexiones y casos prácticos de traducción literaria japonés-español / 日西文学翻訳についてー理論及び実践的な問題
参加者数:会場16名、オンライン24名
「翻訳家は絶滅危惧種」…AIの劇的な発展で、そんな陰口もたたかれる翻訳業ですが、日本語学習者、特に上級では翻訳家を夢見る生徒も少なくありません。今回の研修は、そんな生徒にも対応するべく、もう少し翻訳について理解を深める、また、これを授業に取り入れられるのかを考える、貴重な時間になりました。
インターネットの無料翻訳が「笑える翻訳」をしてくれていたのは既に過去の話。最近では確かに精度が上がっています。結構良い仕事をしているのは認めざるを得ず、つい、自分で考えるよりこちらにお願いした方が正しいかも…、という気がすることも。ですが「翻訳」と言っても様々な分野があり、今回扱ったのは「日本文学のスペイン語への翻訳」です。そこらの一般文書の翻訳とは訳が違う(はず)。
まずは、オルネド・ルシア先生によるレクチャー。日西翻訳の歴史から翻訳一般における問題点(社会・文化背景、婉曲表現、隠喩など読者自身の知識によって補わなければならないもの等)、日本語特有の問題点(ひらがな・カタカナ・漢字の3表記のうえ、同音漢字を使っての遊びができる、等)を学びました。
次にグループに分かれての2つのワーク。
1.「漢字・ひらがな・カタカナ問題」の考察。
『…センセイ、とわたしは呼ぶ。「先生」でもなく、「せんせい」でもなく、カタカナで「センセイ」だ』これをどう訳すのか。
2.「一筋縄ではいかない敬称問題」。
『…「光君」。息子なのに君づけはおかしいだろうか。いや、でも、ずっと会っていないのに、呼び捨てはしにくい』この「君」をどう扱うのか。
レクチャーの中で「文学翻訳に正解はない」とのお話がありましたが、まさに日本語ネイティブであっても、個人の体験や記憶によって感じることは驚く程違うのです。これに文化的背景・隠れた意図を加えて、更に読み手にとって自然な文章となると・・・。ワークは面白過ぎて各グループとも盛り上がり、時間が足りませんでした!!
まとめでは、ルシア先生がおっしゃった「翻訳によって失われるものはあるが、それをできるだけ減らし、別の形で補う」「わかりやすさに走って単語を変えるのには注意が必要。オリジナルの文化は残すべきでは」が心に響きました。言語とその文化は表裏一体。日本語には日本の文化が現れている訳で、授業に文化的な要素も加えることが日本語習得の隠れた鍵になると再認識しました。
最後に「AIが訳した文章に文化的な面が反映されているのかを確認していく、というのはクラスに使えそう」との意見も出され、今回の研修では、難しそうな印象のある(というか、実際大変難しいと判明しましたが…)「翻訳」を面白いものと捉えることができ(実際、非常に面白いです)、これは生徒が翻訳家を目指しているかどうかに関わらず、有効なツールのひとつになったのではないでしょうか。
オルネド・ルシア先生、企画・準備していただいた方々(特に今回初の会場になった Escuela Oficial de Idiomas Jesús Maestro の西村小百合さん)、ご参加の皆さま、有意義な楽しい時間をどうもありがとうございました。
佐野由季(マドリード)