2016年2月APJE研修会

2016年2月APJE研修会

石黒圭先生「ワークショップ:七つの魔法の表現」

午後の部後半はワークショップでした。7つの多義表現(文脈によっていろいろと違った意味で使われる便利な表現)を「魔法の表現」と石黒先生が名づけ、それぞれの表現の会話例文を考えて、一つの表現にどんな用法があって、どのぐらい「使える」のかを体験的に確認するワークでした。会話のレベルは、N4に合格できるかな、という程度のまだ初級の学習者を念頭に、という設定でした。

 

ワークショップの時間は、以下のような流れで進みました。

1)石黒先生からワークの趣旨の説明

2)個人作業で会話例文を書く

3)ペアで会話例文を補完

4)2つのペアで会話例文を突き合せて検討し、7つのうち2つの表現にしぼって例文を洗練

5)全体で表現ごとに会話例文を発表・共有、石黒先生からフィードバック

6)まとめ

 

7つの「魔法の表現」として今回取り上げられたのは以下のものでした。

a. すみません

b. 失礼します

c. すごいですね

d. 大丈夫です

e. ありますか(「(名詞)、ありますか。」の形で助詞を取らない)

f.  お願いします

g. ~たいんですが

※各表現ごとに発表された会話例文は、別紙「7つの魔法の表現でコミュニケーションを円滑に!を参照してください。

 

今回、多義表現の使い道を考えるワークとしたのは、一昨年の野田先生と昨年の山内先生のワークショップの方向性を石黒先生が想像されたところ、初級で次々と新しい文型や文法知識を教えていくよりも、数は少なくても使いまわしがきく文型や表現を習得して、いろいろな場面で使えるようになるという内容が合っているだろうと思われたからということでした。

以下、参加しての個人的な感想です。

 

最後のまとめの時にもお話がありましたが、研修会などで多くの先生が集まると、自分にはない発想の共有ができるので、ワークの成果があがるということが、例文のバリエーションから実感できました。

それから、全体で例文を共有しているとき、自分はそういう言い方はしないな、今はそういう言い方をするのかな、もうこんな言い方はしないのかな、と感じることがありました。時代とともに言語使用も変わっていくので、自然なことだと思いますが、そういう実態についての最新の知識を専門家の分析も含めて知ることの重要性を感じました。たとえば、石黒先生のお話の中で、最近は「大丈夫です」をよく使うようになっていますが、これは日本語の自然会話では「はい」「いいえ」を実はあまり使わないから、という説のご紹介がありました。「コーヒー、もう1杯どうですか。」「あ、大丈夫です。」は、実は「いいえ」であって、「はい」という意味の時は「コーヒー、もう1杯どうですか。」「あ、お願いします。」などと言うことが多いとのこと。「はい」「いいえ」は、会話練習のときに必ず入れたくなってしまうと感じるのですが、それはすごく教科書的な発想で、実はそういう教科書的な日本語には違和感を感じる学習者も結構いるかもしれないと思いました。

また、ある表現の例文を集めて用法を区別するとき、どこで線を引くかという問題についても思うことがありました。グループワークで考えた例文を発表するときは、3つの例文を意味・用法の違いを説明しながら発表することになっていました。そして、グループの発表の後に石黒先生の分類案が示されたのですが、しばしば用法の違いについてどこで線を引くかは絶対の基準があるわけではないというコメントをされていました。私はつい「正解」を求めがちになるのですが、「正解」があるわけではなく、学習者にとって、あるいは同僚の教師にとってよくわかる区別ができていればいいのだな、と思いました。

最後に、月並みですが、APJEの先生がたと一緒に具体的に日本語について、授業について考えるというのは、やはりすごく楽しいなと感じました。

(執筆者:隈井正三)