2016年11月APJE研修会 報告

「楽しい授業とは? -ゲーミフィケーション・ファシリテーションを授業に活かす―」

11月6日(日)、マドリードのCentro de Negocio Lagascaにて、秋の定例研修会が行われました。講師にJFマドリード日本語アドバイザーの近藤裕美子先生をお迎えしての今回のテーマは「楽しい授業とは? -ゲーミフィケーション・ファシリテーションを授業に活かす―」。参加申し込み締め切り日前に満員御礼で申し込みが打ち切られたことからも、現場の教師がまさに欲していたテーマだったことがうかがわれます。

セミナーはまず「なぜ楽しい授業が必要なのか」「楽しい授業とは何なのか」という根本的な問いから始まりました。経験的、本能的に楽しいことに意義や効果があると分かっているからなのか、どこかでそれが良いと聞いたのか。漠然と抱くイメージ「楽しい授業」とは何なのか。自分が当然のように立っている前提に疑問を投げかけるという行為は目と心を開き、各自がこのセミナーで学んで帰りたいと思っている漠としたイメージに具体性を与えてくれたようです。

そして第一部は体験ワーク。「思いっきり遊んで下さい」という先生の言葉に従い、集中力を注いで思いっきりまじめに遊ぶ参加者たち。用意された活動はどれも、スペインで日本語教育に携わるという共通性を持った参加者たちが学習者の立場に立って様々なゲーム的要素を体感できるように、念入りに考えて作られたものばかり。

続いて休憩をはさんだ第二部「ゲーミフィケーションの要素を活用する」では、第一部で行った活動の背景にあるもの、理論的側面について見ていきました。ゲーミフィケーションは特にビジネスの世界ではよく使われており、例えばレストランに行って来店のたびにスタンプを押してもらって貯めていくなどといった身近な事象もその活用例だということです。ゲームと聞けば「勝ち負け」「遊び」という程度の認識しかなかった私のような者には、「フィードバックや拍手」「結果の視覚化」「協力」「共有」などといったことも「ゲーム的要素である」というのは、発見でしたが大変納得のいくものでした。一つ一つのゲーム的要素について詳しく見ていき、第一部で行ったタイ数字やつなぎことばカードを使った活動、共通点探しなどのワークには、それぞれどういう要素が活かされているのかを分析しました。そう言われれば、第一部の体験ワークのときから近藤先生は、何かが早くできた人、何かを多く集めた人、良い発言をした人などにその都度ご褒美の「シール」を配っていました。たかがシール、されどシール。セミナーのこの時点で一枚もシールをもらっていないことが実は少し気になっている自分に気づき、各ゲーム的要素(この場合は「集める」)は、人間の習性や本能をうまく活かしているのだなと思いました。

第三部は「ファシリテーションの要素を活用する」。何かの目的やゴールに向かって活動を円滑にスムーズにすすめるというのがファシリテーションのコンセプトであり、授業で言えば、場作り、場のコントロールのほか、活動の緩急のつけ方などの授業運営テクニックにもファシリテーションの要素が活用できます。教師・講師から学生・受講者へと情報が一方向に流れるのではなく、気づきやピア・ラーニングといった学習者中心の授業におけるファシリテーターとしての役割が教師に求められるということを、改めて認識しました。近藤先生によるこのセミナー自体が、第三部で考えたことの一つの模範例であったのは間違いありません。

学生のためにも教師自身のためにも授業は楽しいほうが良いとは思うものの、どこかに楽しい授業や丸ごと使える面白い素材が転がっているわけでは、ないようです。「一人ひとりが今の授業に、今日学んだようなゲーム的要素その他のエッセンスを自分なりに取り入れることで、授業を活性化し楽しくしていけるのだ」ということをお土産に、高揚した気持ちで家路につきました。

元木 智絵(サラマンカ)