第32回APJE定例研修会 報告

日時: 2021年11月7日(日)10時30分から14時00分まで
会場:オンライン(Zoom使用)
講師: 中川千恵子先生(國學院大学大学院兼任講師)
タイトル: 「みんなで考える発音の自律学習ーオンライン日本語アクセント辞書(OJAD)を活用してー」
主催: スペイン日本語教師会
参加者数: 39名

1 印象に残ったこと

講義の中で学んだことは多くありますが、印象に残ったこと3つを取り出し、記します。

①入門期に発音指導を行うこと

 入門期に発音指導をきちんと行うことが重要です。学習者が自分の発音に気をつけることができるようになれば、その後の自律学習につながり、すなわち「気づく」、「意識する」、「持続する」ことができるようになります。そうなれば、教える側の教師は間違っている発音に対して全部を言い直す指導をするのではなく、「ちょっと違うね」と声をかけるだけで十分な教育的働きかけができます。

②発音指導において目標を立てること

 発音指導においても小目標を立て、それが達成できたら次の小目標に向かって学習する、というように進めていきます。発音での必須目標は、「聞き手にとって聞きやすく、わかりやすく伝えられる」ことです。学習者自身で自己評価できるることが自律学習につながります。

③オンライン日本語アクセント辞書(OJAD)を活用すること

 オンライン日本語アクセント辞書(OJAD)、日本語発音ラボなどのアプリケーションを活用するのも発音指導おいて有効な指導です。学習者が日本語を読み上げるとき、速さが同じであってもポーズが少ないと聞き取りにくいといった事実をアプリケーションを通して知る、そのようにして学習者が読み方の重要性を納得すればアプリケーションの活用も継続します。

2 考えたこと等

 私個人のことになりますが、20余年に渡って日本において大学教育・研究に携わり、現在スペインで日本語教育という新しい分野に関わるようになりました。日本の小・中学校の教師の間では、学級開きからの3日間を「黄金の3日間」と呼びます。4月の学年開始時にクラスでのルールや担任教師の考えなどの重要な事柄を児童生徒に明確に伝えられるかどうかが、その後の学級運営を左右するからです。それと同じように日本語教育の入門期に発音を扱うことは非常に重要なのだと身に沁みました。

 中川先生は学習者が自律して学習できることを大目標として掲げられていて(あるいは日本語教育を考える際の底辺に流れていて)、教師はそのうえで授業の中で何をどう扱うのかを考えること、学習者にとって無理のない小目標を立てて達成していくのが良いことなどを教えて下さいました。学習者は小目標を達成することで自信をつけ、長期的な学習の継続につなげていけるという仕組みです。これは臨床心理学における行動療法的な考え方に類似しています。教師にもカウンセラーにもいえることですが、成長に随伴する者が手を貸して本人の代わりにやってあげる、それは良い援助法ではありません。いずれは自分の足で独り立ちして、歩いていくことが前提にあることを忘れずに、教師は学習者が自分で気づく力や意識する力、問題解決をしていく力を身につけていけるように関わりたいものです。そのための様々な工夫、手法、アプリケーションの活用があることをこの研修会で学びました。

 最後に、長年に渡る教育や研究の中で時間をかけて培われた知識や教材を、後に続く私達に惜しみなく継承してくださった中川先生に感謝申し上げます。どうもありがとうございました。

岡田珠江(グラナダ)