三宅和子先生「モバイルメディアを使った日本語に挑戦!-LINE上手は日本語上手」

第13回APJE総会兼研修会

2022年 第13回 総会・研修会
日時:2022年2月5日(土)午前10時から午後18時半
会場:オンライン(Zoom)
講師:三宅和子先生(東洋大学名誉教授)
テーマ:「モバイルメディアを使った日本語に挑戦!-LINE上手は日本語上手」
主催:スペイン日本語教師会、国際交流基金マドリード日本文化センター
参加者数 総会44名、研修会49名(総数55名)

三宅和子先生(東洋大学名誉教授)

2022年2月5日(土)の午前10時から午後18時半まで、東洋大学より三宅和子先生をお迎えして、スペイン日本語教師会・国際交流基金マドリード日本文化センター主催によるオンライン(Zoom)講演とワークショップが行われました。テーマは「モバイルメディアを使った日本語に挑戦!-LINE上手は日本語上手」でした。 

はじめに、参加者の携帯電話及びSNSの使用状況についての事前アンケート結果についてお話がありました。アンケートを通して、自身が使っている媒体はどれか、いつからどれくらいの頻度で使っているか、SNSとほかの媒体の使用時にどんなことに気を付けているか、どんな違いがあるかなどの点について振り返ることができました。また、「身内とのやりとりでは方言を使う」、「前置きをせずいきなり本題に入る」など、他の参加者の回答を知ることで改めて気づかされる部分も多々ありました。

第1部では、1990年代以降のデジタル機器の普及が現代社会におけるコミュニケーション方法に及ぼした影響についてお話を伺いました。コミュニケーション手段が電話からスマホへと変わるにつれて、人々の社会言語生活にも変化が現れました。特に、携帯電話をはじめとするモバイル・メディアとインターネットの普及により、物理的に移動することなく情報をやり取りできる「非対面」型のコミュニケーションが日常化され、SNS上の日本語に新しい表現が見られるようになりました。

とりわけ「視覚に訴える表記」が発達したということで、実際のケータイメールの例を見ながら、表記に反映された話し言葉の影響や視覚的な要素を垣間見ることが出来ました。中には「顔文字」や「絵文字」、クエスチョンマークなどの「記号」のほか「小文字」や「ギャル文字」など、モバイルデバイスならではの表記法が分類された一覧があり、筆者自身が日常生活の中で使っている表記法はどこに分類されるのかを考える機会になりました。例えば、面白おかしい気持ちを表現する際に使う「(笑)」や「(爆)」、ちょっと気まずい雰囲気を演出する「(汗)」などは「かっこ文字」に分類されるそうです。他にも、眠い時の「zzz」は「ローマ字」表記として分類されていました。後日、SNS上の表現を観察してみたところ、どう分類すべきか分かりにくい表現がいくつか見つかりました。例えば、よく目にするもので、何かが面白おかしいという意味で使われる「www」や「草」という表記があります。前者は一見「ローマ字表記」ではあるものの(「わらう」が語源であるとすると)「外国語」には当てはまりません。また、「www」から派生したと思われる「草」、「草生えた」などは「漢字表記」ですが、元々の意味からはかけはなれています。このように、SNS上の流行や日本語の現状について把握するためには、個々の表現について考え分析する地道な作業が必要なのだと実感することができました。

「視覚に訴える」表記は、文面では捉えがたいコミュニケーション要素(相手の表情、場の雰囲気など)を補おうとする意図の現れであり、時代とともに変化してきました。例えば、日本で生まれた「絵文字」は国際的な認知を得た「Emoji」となり、後のLINEスタンプの登場につながりました。LINEにはGIF画像や動画、スタンプを送る以外にも、吹き出しを使った会話表示、背景の着せ替え機能などが備わっており、視覚的な要素がさらに増え、重要視されていることが分かります。

第2部では、SNSの定義と様々なSNSメディアとLINEの特徴(使用者の年代比較)、場面や相手による使い分けについてお話を伺いました。とくに若者のLINEを使った会話では「対面とヴァーチャルの綯い交ぜ」というキーコンセプトがあげられました。吹き出し表示の会話、短くリズムのはやいやり取り、視覚リソースの使用など、非対面でありながら実際に会話をしているかのような臨場感が参加者の間で共有されます。また、会話が行ったり来たりする「スイッチバック現象」やスラングの使用などが若者LINEの特徴として指摘されていました。なかでも、日本語母語話者と韓国日本語学習者の「依頼LINE」の違いについてのお話を興味く伺いました。日本人学生には、頼まれた相手が憂慮する時間と労力を極力なくそうという配慮から、頼みごとを一気に相手に伝える傾向があるそうです。一方で、韓国人学生の場合、一気に頼むのは無礼に値するのではないかという考えから、前置きが多くなるという傾向がみられるということでした。

若者のLINEにつづいて、「おばさんLINE」や「おじさんLINE」なるものがあり、その特徴を一つ一つ自問する作業はおっかなくもスリルがあり楽しい作業でした。

以上のLINEメッセージの特徴を踏まえたうえで、第2部の後半部分では実際にLINE会話を作るグループワークを行いました。筆者のグループでは「地震直後」の「若者LINE」を作成しました。語彙の面では若者ことばやネットスラングを使い、会話の流れとしてはいとまごいをしない点やスイッチバック現象を意識してメッセージを書いてはみたものの、普段あまり使用しないスタンプ選びに時間がかかったり、やり取り自体のテンポが悪いなど、「若者LINE」の特徴を網羅することはできませんでした。とはいえ、それぞれの特徴を把握することで、実際の日本語教育現場でLINEレアリアを使った学習の場を設けたり、模擬LINEテキストを作ったりと、今後の活動に活かすことができると思います。

このように、今回の講演会・ワークショップに参加して、「非対面」型のコミュニケーションの実態を把握、分析し、日本語教育の現場に応用することは必要不可欠なことだと実感しました。学習者にとって、教室や教科書の日本語を学ぶだけでは、SNS上で日常的に使われている「新しい」日本語を正しく理解することが難しいことがあるでしょう。また、学習者が自らが発信する際にも、場面や相手によって表現方法を変えたり、語彙や表記を選んだりする能力が求められます。今回の研修会を通して、SNSを使った円滑な情報・意思伝達をする能力を教師自身が身につける必要があると実感しました。

あお(ペンネーム・APJE会員)

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三宅和子先生(東洋大学名誉教授)

私にとっては実に7年ぶりとなるAPJE総会と研修会。両親の介護で日本に帰国し、介護はもちろん、通訳の仕事をしながらなんとか生き延びたこの数年間だった。コロナ直前まで日本はインバウンドバブルで、東京の街を歩いてもスペイン語が頻繁に聞こえてきた。仕事で成田空港に行くこともよくあって、電光掲示板にIB・MADRIDの字を見ただけでドキドキした。午前11時半ごろだったか、イベリア便の出発時間に空港にいたときはT2のデッキに上がって黄色とオレンジの機体がかなたに飛び立っていくのを見送り、この空の向こうにマドリッドがあるんだなーと涙した日もあった。

その後(いろいろあったが)マドリッドに戻り、数年ぶりにスペインの日常がもどってきた。

久しぶりの研修会・総会は緊張した。しかしなつかしい方々に画面を通してお会いすることができてとても温かい気持ちになった。

開会式の後10時過ぎから始まった研修テーマは「モバイルメディアを使った日本語に挑戦!-LINE上手は日本語上手」。おじさん、おばさん、若者といったグループ分けでだいたいラインに使われる語彙、表現のスタイルに傾向がみられるということで、まずそれを把握した後、グループでおじさん、おばさん、あるいは若者になりきってひとまとまりのグループ会話を作る、というもの。

私のグループには生粋の関西人がいて、関西の下心ありのおっちゃんとそれにやや迷惑そうな飲み屋の従業員(若い女の子)という設定にした。私は密かに関西弁に憧れがあって、JFの図書館にあった「関西弁を話そう」で練習したほどだ。関西弁ネイティブが編み出す関西のおっちゃんのセリフは、やはり私にはまねできない。そんなことで感心しているうちに会話のテーマである「地震のあとに相手の安否を確認する」というのを忘れて暴走しがちな楽しいグループワークであった。

14時過ぎからの親睦会はいくつかのルームを移動しながらのお茶会タイム。私は三宅先生のお部屋におじゃまして数人の方と雑談した。なんでもスペイン語版ラインは日本のと微妙に機能が違うらしく、そんな話で盛り上がった。

その後昼食をはさんで、16時半からの総会では年間行事計画、勉強会について、デジ部から、会計、さくらネットワーク特別助成、シンポジウム等の報告があり、新プロジェクト「スペインにおける日本語の継承の実態」の提案があった後、役員改選となった。

役員改選では板倉現会長の「やっと慣れてきたところで、ここで終わらせるのではなく、もっとやってみたいと思った」という言葉が印象的だった。

その後、賛助会員Aprende japonés hoyのヘススさんからのあいさつがあった。JFMDからは授業準備に参考になりそうないくつかのHPを紹介していただいた。

18時半すぎに閉会したが、盛沢山とはまさにこのこと。当日は朝8時半から個人クラスをしてそのまま研修会に参加した私はベッドに直行。しかし準備をされた方々はもっともっと大変だったと思う。

お疲れさまでした、そしてありがとうございました。

桜井悦子(マドリード)